明日の蒼の空
 絶対に落とさないようにと自分に言い聞かせながら、ゆっくり歩いて東ひまわり駅の停留所に向かい、「こんばんは」と挨拶をして、馬車に乗り込んだ。

「その箱の中には、何が入っているんですか?」
 馬車の運転手さんのおじさんが、運転席側の小窓を開けて、私に尋ねてきた。

「私とりさのドレスです。再来月の五月十日に、私の姉の結婚披露宴がありまして」

「そうなんですか」
 馬車の運転手さんのおじさんは、にっこりと微笑み、運転席側の小窓を閉めて前を向いた。

 私はなんだか嬉しくなって、膝に乗せているドレスの入った箱を抱きしめた。

 りさの喜ぶ姿が目に浮かぶ。



 家に帰ったら、玄関の前に、夏美さんとりさが立っていた。

 どうやら、待ち切れなかった様子。

 りさが私の元に駆け寄ってきた。「蒼衣お母さん! おかえり!」

 さっそく試着。

 夏美さんに着るのを手伝ってもらい、私とりさは仕上がったばかりのワンピースドレスに着替えた。

「わあ、蒼衣ちゃんじゃないみたい。すごく綺麗よ」
 夏美さんが笑顔で褒めてくれた。

 ドレスを着たのは生まれて初めて。

 すごく恥ずかしかったけど、すごく嬉しかった。

 りさは、「ドレス! ドレス!」と言って、大喜び。

 ひらひらフリルドレスを着たまま、家の中を走り回っている。

「汚すと大変だから、蒼衣ちゃんもりさもドレスを脱ぎましょうか」
 夏美さんに言われて、私とりさはドレスを脱いだ。

 早く来い来い姉と和馬さんの結婚披露宴。と心の中でつぶやきながら、大切なドレスを箱に仕舞った。

 披露宴の前日の夜までドレスの入った箱は開けない。部屋のクローゼットに仕舞って、大切に保管しておく。
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