明日の蒼の空
 多くの人に、心配と迷惑を掛けてしまうことになり、私は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。菓絵さんを誘わなければよかったと後悔した。結婚式目前で、交通事故に遭ってしまい、彼氏さんと結婚式を挙げられなかった菓絵さんの気持ちを考えるべきだった。

 私は心から反省した。反省したところで、菓絵さんは戻ってこない。

「蒼衣の責任じゃないからね。あくまでも、菓絵さんの決断よ。大丈夫、大丈夫。菓絵さんも奈菜子も、きっと無事に戻ってくるから」
 私の気持ちを汲み取ってくれたのか、夏美さんが優しく言ってくれた。

「大丈夫ですよね。きっと戻ってきますよね」
 菓絵さんと奈菜子さんが無事に戻ってくることを、ただただ祈るのみ。



 一日でも早く、菓絵さんと奈菜子さんが無事に戻ってくることを願いながら、家事と仕事の合間を縫って、私は連日、みんなのふっちゃんに足を運んだ。

 菓絵さんの祖父母さんの冷静な対応により、東ひまわり町の人々は落ち着きを取り戻していき、みんなのふっちゃんに押しかける人の数は次第に減っていった。

「菓絵が戻ってくるまで、店を畳むわけにはいかないからな」
 菓絵さんの祖父さんの力強い言葉を聞いて、私は少し安心した。

「みんなのふっちゃんに、とうちゃくー」
 たあくんも、みんなのふっちゃんに通い続けていて、お店の前にあるベンチに座って、ベーゴマを磨きながら、菓絵さんの帰りを待っている。

「菓絵おばちゃん、早く帰ってこないかな」
 たあくんがつぶやいた。

 私は、菓絵さんがなかなか戻ってこないことを知っている。この世界に無事に戻ってこられる可能性が低いことも知っている。無事に戻ってこられたとしても、五年後か十年後か、それ以上の年数か。菓絵さんの笑顔を見られるのは、いつになるのかわからない。

「よし、ベーゴマの練習をしよう」
 けなげな態度で菓絵さんの帰りを待ち続けているたあくんはそのことを何も知らない。

 何も知らないままのほうが、幸せなのかもしれない。私はそう思うようにした。
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