明日の蒼の空
 彼氏さんからの手紙には、よくないことが書かれていたのだと思う。いったいどんなことが書かれていたのか。勝手に読むのはいけないことだけど、どうしても気になってしまう。

 夏美さんが眠ったのを確認した後、こっそり手紙を読んでみた。



 夏美、元気か。この出だしの文言は、いつもと同じだが、ここから先の文章は、いつもとは違う。どうか覚悟して読んでくれ。

 おれは、夏美が天国で暮らしていると信じて、この三年間、ほとんど毎日のように手紙を書いて、夏美の遺影の傍に置いた。そうすれば、夏美の元に届くと思ったからだ。きっと届いているさ。届くわけないだろ。この二つの気持ちの中で、手紙を書き続けてきた。

 もし、おれの手紙が夏美の元に届いているとしたら、死ぬまでずっと書き続けなければ。と思った。それがいつからか、おれは何をやってるんだろう。と思うようになった。果たして、このままでいいのかと、自問自答するようになった。何を書いていいのかわからなくなって、筆が進まない時も多々あった。

 悩んで悩んで悩み抜いて、考えて考えて考え抜いた結果、手紙を書くのは今日までにした。

 夏美がいなくなってから、今日で丸三年。この三年間は、本当に長かった。本当に苦しかった。自分との闘いの日々だった。おれの人生の中で、いちばん困難な時期だった。

 おれは、そんなに強い人間じゃない。だから、一人では生きていけない。誰かと一緒に暮らしたい。誰かと喜びを分かち合いたい。誰かと一緒に同じ空を見上げたい。だから、ひと月前に知り合った女性と付き合うことにした。その人に、夏美のことは話してある。彼女を亡くしたおれと付き合ってくれると言ってくれた。おれを支えてくれると言ってくれた。

 おれの気持ちを理解してくれるか? おれの決断を許してくれるか? おれの幸せを願ってくれるか?

 同じ世界で、五年間。違う世界で、三年間。こんなおれと、八年間も付き合ってくれた夏美には、本当に感謝している。夏美のことは絶対に忘れないから。ありがとう、夏美。
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