明日の蒼の空
「こんにちは」
 夏美さんが、電車の運転手さんらしきおじいさんに挨拶をした。

「こんにちは」
 電車の運転手さんらしきおじいさんは、制帽を脱いで、笑顔で挨拶を返した。

「あたしのことを、覚えていらっしゃいますか?」

「覚えていますよ。あなたは、藤崎夏美さんですよね」

「はい。覚えていてくれて、すごく嬉しいです」

「また乗りに来てくれたんですね」

「はい。今回は家族で来ました」

「そちらのお二人は、夏美さんのご家族でしたか」

「はい。あたしの妹の蒼衣と娘のりさです」

「蒼衣さんとりさちゃんですね。どうも初めまして。私は、この電車を運行している、御手洗鉄郎と申します」

 笑顔で自己紹介をしてくれた御手洗さんは、私とりさに向かって頭を下げた。

 夏美さんと御手洗さんは、再び談笑し始めた。

「すっかりとお元気になられたようで」

「はい、おかげ様で。星のしずく海岸には、誰かいますか?」

「若い男女のカップルがいらっしゃいます」

「そうなんですか。星のしずく海岸まで、乗せてもらえますか?」

「もちろんです。出発の準備をしますので、ご乗車になって、お待ちください」

 御手洗さんは制帽を被り直し、電車の扉を開けてくれた。

 我が家は荷物を持って電車に乗り込んだ。

 夏美さんは、運転席の後ろの席。私とりさは、夏美さんの後ろの席。

 電車自体は小さいけれど、座席は意外と広々としている。
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