明日の蒼の空
 私とひばりさんと夏美さんとりさと御手洗さんとくーちゃんは、手を合わせて祈った。

 正行さんは、地面に正座して、頭の上で手を合わせている。

 空に届け! 私は渾身の力を込めて叫んだ。



 春子さんは……青色のカラーボールを持ったまま、動きを止めた。

 頭の角度が少し上がり、そのままの姿勢でまた動きを止めた。

 頭の角度がさらに上がり、青色のカラーボールを手から離した。

「ママ、どうしたの?」
 日菜子ちゃんが春子さんに向かって言った。

「早く投げてよ」
 寛太くんが春子さんに向かって言った。

「日菜子! 寛太! 後ろに振り返って! 空を見上げてごらん!」
 春子さんが大きな声で言った。

 日菜子ちゃんと寛太くんはすぐに後ろに振り返った。

 空を見上げているのは、春子さんと日菜子ちゃんと寛太くんだけ。

「ママ、お空に絵が描かれているよ」
 日菜子ちゃんが空を見上げながら言った。

「ママ、何て描いてあるの?」
 寛太くんが春子さんに尋ねた。

 日菜子ちゃんと寛太くんは、空を見上げながら、春子さんの元に歩み寄っていった。

 春子さんは、日菜子ちゃんと寛太くんの肩に手を乗せた。

「読んであげるね」
 春子さんは明るい声で言った。



 日菜子へ。パパは元気だぞ。また一緒にお風呂に入ろうな。

 寛太へ。パパも野球をやってるぞ。また一緒にキャッチボールしような。

 春子へ。苦労を掛けてごめんな。いつの日か、家族四人で野球をしような。



 春子さんが文字を読み終えた途端、正行さんが描いた絵と文字は、散り散りになって消えてしまった。

 誰も息を吹きかけていないのに、消えてしまった。
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