明日の蒼の空
 時刻は一時五十分。あと十分ほどでランチタイムは終了。店内はだいぶ空いてきた。

 萌さんも他の店員さんたちも黙々と片付け作業を進めている。今が絶好のチャンス。

「ひばりさん、少しお時間をいただいてもよろしいですか?」
 私は椅子から立ち上がり、厨房でお皿を洗っているひばりさんに声を掛けた。

「いいわよ」
 微笑みながら応えてくれたひばりさんは、お皿を洗う手を止めて、私の向かいの席に座ってくれた。

「お忙しいところ、どうもすみません」

「いいのよ」

「あの、もしよろしければ、私が描いた絵を見ていただけませんか?」
 私は緊張しながら、スケッチブックをひばりさんに差し出した。

「喜んで見させてもらうわね。ずっと楽しみにしてたのよ」
 ひばりさんは優しい笑顔で私のスケッチブックを捲り始めた。

 どんなことを言ってくれるのだろう。私は緊張したまま、ひばりさんの顔を見つめた。

「わあ、すごくそっくり。私たちの似顔絵も描いてくれたのね。どの絵もすごく上手よ」

「褒めてくださって、どうもありがとうございます」
 絵が上手な人に褒められるとすごく嬉しい。自分の絵に自信が持てる。ひばりさんにスケッチブックを見せて本当に良かったと思った。

「空のキャンバスに、料理の絵とランチメニューの文字を描いているのは、ひばりさんですよね?」

「そうよ」

「いつもすごいと思って見させてもらっています。毎日、楽しみにしています」

「私の絵を見てくれて、どうもありがとう」
 ひばりさんは恥ずかしそうに微笑んだ。

「もしよろしければ、空のキャンバスに絵を描く方法を教えていただけませんか?」

「いいわよ。もう少しで手が空くから、東ひまわり公園で待っててもらえるかしら」

「はい。わかりました」

 ひばりさんは席を立って厨房に戻っていき、私は色鉛筆の入った手提げバッグとスケッチブックを持って外に出た。忙しいのに時間を作ってくれたひばりさんに大感謝。
< 54 / 315 >

この作品をシェア

pagetop