明日の蒼の空
「実際に描いてみないと、イマイチピンと来ないでしょ?」

「は、はい。イマイチピンと来ません」
 私は正直に答えた。

 ひばりさんの説明を聞いただけではイマイチ理解できない。どうにもこうにもイメージが膨らまない。空のキャンバスに絵を描くという感覚が掴めない。

「まずは私がお手本を見せるから、蒼衣さんは私の後ろから見ていてね」

「は、はい」
 ひばりさんが空のキャンバスに絵を描くところを間近で見るのは私は初めて。わくわくどころの騒ぎじゃない。私は急いでひばりさんの後ろに回った。

 今日は昨日より風が強い。南から北に向かって吹いている。

 長くて綺麗な髪をなびかせているひばりさんと私の立ち位置は広場の中央。空を遮るものは何もない。太陽と反対側の空の方向に向いている。

「地上から、五メートルの高さに描くわね」
 ひばりさんはそう言うと、エプロンのポケットから筆を取り出して、筆を握り締めた手を空に向けた。

 私は顔を上げて、淡い水色の空を見上げた。

「絵を描かせてください」
 優しい声で空に向かってお願いしたひばりさんは、筆を握り締めた手を素早く動かし始めた。

 地上に立ったまま、筆を握り締めた手を動かしているだけなのに、水色の空のキャンバスに色が塗られていく。

 茶色、赤茶色、オレンジ色、黄色、緑色、深緑色、黄緑色。とにかくいろんな色。
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