明日の蒼の空
「ひばりさんは、画家さんだったんですか?」

「ううん。この町に来るまでは平凡な専業主婦だったのよ。ただ、絵を描くことは幼い頃から好きでね。家事や育児の合間に趣味で絵を描いていたのよ」

「そうだったんですか。ひばりさんは、空のキャンバスに絵を描く方法を、どなたから教わったんですか?」

「誰からも教わっていないのよ」

「ということは、空のキャンバスに初めて絵を描いた人は、ひばりさんなんですか?」

「それはどうなのかしらね。空のキャンバスに初めて絵を描いた人が、私なのかはわからないんだけど、空に絵が描けたら楽しいだろうなと思って、絵を描いてもいいですか。と言って、空にお願いして描いてみたら、空のキャンバスに絵が描けるようになったのよ」
 ひばりさんは空を見上げながら話してくれた。

「何でもやってみるものですね」

「そうね」
 とても穏やかな表情を浮かべているひばりさんの顔を見つめながら、私は考えた。

 絵が好きな人は大勢いると思う。絵を描くことが好きな人も大勢いると思う。空のキャンバスに絵を描いてみようと思ったことのある人は、そんなに多くはいない思う。

 ましてや、絵を描いてもいいですか。と言って、空にお願いして絵を描く人なんて、そう滅多にいないと思う。

 なので、空のキャンバスに初めて絵を描いた人が、ひばりさんだったとしても不思議ではないと思った。
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