明日の蒼の空
「ひばりさんはね」
 夏美さんはビールを飲む手を止めて、ひばりさんのことについて話してくれた。

 東ひまわり町で暮らして、十二年目になるというひばりさんには、地上の世界に大切な旦那様と三人のお子さんがいるとのこと。

 最愛の奥様を失った悲しみを乗り越えた旦那様は、仕事と家事と子育てに追われる忙しい日々を送られていて、三人のお子さんは、たくましく成長されているという。

 ひばりさんはプライベートの時間に地上の世界に降りて、三人のお子さんの成長と旦那様の様子を見守り続けているとのこと。

 夫も子供たちも頑張って生きているから、私も一生懸命、頑張らないと。以前、そのようなことを夏美さんに言ったことがあるらしい。

「菓絵さんはね」
 ビールをおかわりした夏美さんが、菓絵さんのことについても話してくれた。

 東ひまわり町で暮らして、五年目になるという菓絵さんには、地上の世界に大切な彼氏さんがいるとのこと。

 結婚式目前で、菓絵さんが交通事故に遭ってしまい、それからずっと離れ離れ。

 突然、婚約者を失ってしまった彼氏さんは、今でも二人の思い出の地に通い続けていて、その場所から月に一度、菓絵さんに向けた紙飛行機の手紙を飛ばしているとのこと。

 菓絵さんは彼氏さんの想いに応えるため、決して届くことのない紙飛行機の手紙を飛ばし続けているとのこと。

 空の下の笑顔の彼。空の上の笑顔の彼女。彼が笑顔でいるから、私も笑顔でいるの。いつだかそんなことを夏美さんに言ったことがあるらしい。
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