聖なる夜にくちづけを。

会えないのは仕方がない。
だってお互い社会人だもの。
だけど“OK”ってスタンプひとつで会話を終了させられる身にもなってほしい。

「せめて会話をしたいよ……!」
「無理に良い女ぶろうとしないで素直に言えば良いのに」
「良い女ぶるつもりはないけど、素直には甘えられないんだよ、もうこの歳になると」
「厄介な性格だこと」
「聡子に言われたくないな!」
「私はこの性格だからもう甘んじて彼氏とか要らないもの」
「それを言われちゃ何も言えない」

矢継ぎ早に繰り返される言葉の応酬はたぶん女子トークのそれだ。
“女子”と呼べる歳か?と思わなくもないけど、歳を重ねてもそういうところは変わらない。

「会いたいと思うのは私だけなのかなぁ……」

項垂れる私に、聡子は「あんたもまだまだ恋する乙女ねぇ」なんて言いながらグラスを傾けている。
どうするのが最善か、なんて、歳を重ねても自分の色恋沙汰になると見えなくなる。
人へのアドバイスなら何度もしてきて姉御肌何て言われることもあるというのに、小さなことでグジグジと悩んで迷ってしてる。

「どこが姉御肌なんだか」
「まったくね」

長年の友人は容赦ない一言を添えて美味しい料理に舌鼓を打っている。
私が落ち込むなんていつもの事と分かりきっているからこそこの放置。
でもそれに対して持つ感情は彼に対するものとは似て非なるもの。
彼からの放置と友達からの放置はやっぱり違うわけであって。
そして何より違うのは、顔を見て、相手の存在を感じていられるかどうか、だ。


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