聖なる夜にくちづけを。

ため息を吐いてばかりいては美味しいご飯も不味くなる。
気を取り直して私も食事を進めることにした。

「美味しい」
「ね、美味しい」

聡子は心底、美味しそうに笑う。
ちょうどそのタイミングで店員さんがやって来て空になったグラスを下げてくれた。

「美味しく召し上がっていただけて何よりです。お飲み物、追加いかがしますか?」

甘いマスク、良い声の店員さんがふわりと微笑むと聡子がもちろん、といった具合に注文をする。

「白ワイン、お願いします」
「かしこまりました」

店員さんが会釈して下がると、ほぅとため息を吐く。
これは私ではなく、聡子だ。
このメンクイめ。

「彼氏がいなくても十分に楽しく過ごせるってものよ」
「……そりゃ、私だってね。彼氏がいないなら、いないなりに楽しく過ごすけど」

現実問題、私には一応、彼氏がいるのです。

「クリスマスと誕生日が近いなんて、ろくなことがない」

引っ込めたはずのため息はあっさりまた顔を出して、手に持っていたフォークを置いた。
せっかくの美味しいご飯を目の前にして、楽しく食事ができないなんて聡子にも失礼な話だ。

「……あんたはさぁ、そういう愚痴を彼氏にちゃんと吐けるようになると良いのにね」

この聡子の言葉は、ごもっとも、なのかもしれない。
歴代彼氏の中で、こんな風に言ってみたこともない。
だって怖いんだ。
“あなたの望む私”でいなければ私は必要なくなってしまうようで。
立派な依存だと思うけど、根底にあるその意識はいつまで経っても拭えない。
馬鹿みたいだって分かっていても、強がってみても、大人になっても。
例え理屈が分かったって、潜在的な意識は消えてはくれない。


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