常識ナシの竜人サマ!
 翌朝、ガラガラと音を立てて馬車が屋敷の前で止まるのをフェニルはどこか冷めた目で見ていた。豪華な馬車、美しい馬。それらはどこか幻のようだった。


 中から背中に羽が生え額に二本の尖った角をもつという典型的な姿の竜人の男が現れ、フェニルは略式の礼をした。着ている服装からそれなりに身分の高い人間なのだろうという事は見て取れたが、それでも略式の礼をしたのは『お前達に敬意をはらう気はさらさらない』という意思表示だ。


「それでは行って参ります」


 よく通る声で言ってから、父親と使用人達に王族などにする最上級の礼。父親にはこれまで養ってくれた恩があるため、使用人達には感謝をしているためだが、『竜人は使用人以下なのだ』という意味も込めたつもりだ。けれど竜人の男は意味がわかっていないのか、それとも顔に出さないようにしているだけなのか、「こちらへどうぞ。足元お気をつけくださいね」と微笑を浮かべて馬車へフェニルを案内した。


 馬車内は外目より広々していて、座り心地も悪くはない。フェニルは行儀が悪いとわかっていたが、窓から顔を出す。そして馬車が動き出す直前に屋敷を見た。すると、使用人達はすでに屋敷内へ戻っていたが、父親と執事がこちらをじっと最後まで見ていたのに気づく。その瞬間フェニルは自分は屋敷を出るのだ、と実感し、鼻の奥がツンとしたように感じた。
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