幸福に触れたがる手(短編集)





 いや、支えられるかどうかじゃない。支えていきたいと、思えるか否か。

 まだ数日の付き合いだけれど、わたしはこのひとのおかげで、今までの人生で一番楽しい年末年始を過ごせた。

 だから、だから……。

「たまに出るよ、テレビ」

「……」

「新聞に名前が載ったりもする。それでも支えるって思えるか?」

 言われて、この数日間を改めて振り返った。
 たくさん笑って、話して、遊んで。娯楽がほとんどない場所でも楽しめるって教えてくれた。
 篠田さんは思っていることをストレートに伝えてくれて。それに習ってわたしも少しずつ、思っていることを話したり、行動できるようになった、気がする。
 まだまだ発展途上ではあるけれど、変われるきっかけを作ってくれたのは、紛れもなく篠田さんだ。


「……、……分かりました」

「なに?」

「それでもいいです。篠田さんがもし刑務所に入るくらい悪いことをしたとしても、支えていきたいって、今はそう思います。だから、一緒にいてください……!」

 篠田さんに詰め寄りながら言うと、彼はやっぱり呆れた顔で、でもようやくわたしの手を握ってくれた。

「お人好し過ぎていっそ清々しいな」

「はあ……」

「どうせそんな感じで元カレの浮気やドタキャンも許してたんだろ」

「許してたというか、わたしにも非はあったと思いますし。でも篠田さんも好きでもない女の子を抱いたりするんですよね」

「たまにな。それも許すのか?」

「良い気分はしませんが、仕事なんですよね……?」

「ああ」

「なら、仕方ないんじゃないでしょうか……」

 本当は嫌だけど。すごく嫌だけど。
 わたしの知らないところで、わたしの知らない女の子が、このひとと身体を寄せ合っているなんて。それを想像するとなんだかむしゃくしゃする。
 でも仕事じゃあ口出しはできない。……ていうか、女の子を抱く仕事ってなんだろう。ひとを殴ったり蹴ったりする仕事以上に想像できない。




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