幸福に触れたがる手(短編集)
一秒ごとに奪われるね
【一秒ごとに奪われるね】
圭吾くんあのね、ツイッターってリアルタイムでつぶやくものなんだよ。ブログはまあ日記だし、一、二ヶ月に一回書く程度でも仕方ないかなって思っていたけど。あなた全然つぶやかないじゃないですか。圭吾くんらしいかなとも思うけど、やっぱりツイッターの醍醐味ってリアルタイムでコミュニケーション取れることじゃない?
「よく言う。おまえだってもう何ヶ月もSNS上にいないくせに」
わたしのベッドを占領してごろごろしていた圭吾くんは、正論を言った。
「わたしは仕事中に携帯触らないし」
「俺だって稽古中に携帯触らねぇよ」
「でも圭吾くん、仕事の合間とか移動中とかにつぶやけるじゃない」
「おまえ、そんなに俺が何してるか気になるの。今から便所とか、今便所出たとか、これが稽古場の便所だとか、これが劇場の便所だとかつぶやいてほしいの?」
「そういうんじゃなくて。ていうかなんで便所限定なの?」
圭吾くんは眠たそうに寝返りを打って、ゆったりと息を吐く。わたしに背を向けたってことは、この話は終わり、寝かせろという解釈でいいはずだ。
別に圭吾くんが普段どう過ごしているのか知りたいわけじゃないけど。
なんていうのかな。仕事中たまに、圭吾くん今なにしてるかなぁとか思ったりするんだけど。お互いメールも電話も無精だし、役者さんだから生活も不規則だろうし、寝ているときに電話しちゃったら悪いなって思うと、無精に磨きがかかっちゃって。
だからたまにつぶやいてくれたら、連絡するタイミングが掴めるかなぁって。
ああ、つまりこれって、圭吾くんが普段どう過ごしているか知りたいってことか。
束縛したいわけじゃないのに、結論が同じになっちゃう。どうしよう、言葉って難しい。
わたしに背を向けたまま動かない圭吾くんは、てっきりもう寝ちゃったんだと思ったけど「まあ、そうだな」とぼそりと言った。起きていたみたいだ。
「なに?」
「明日からは、リアルタイムでやる、かもしれない」
「無理しないでね」
「かもだから」
「かもだね」
ていうか圭吾くん、そこで寝たらわたしが寝る場所がなくなっちゃうじゃない。
すごくナチュラルに毛布かぶって枕に顔埋めているけど、それ全部わたしのなんですけど。
「うるせえな、おまえも一緒に寝りゃあいいだろ。なんのために狭い部屋にセミダブルのベッド置いてるんだよ」
それはシングルだと床におちそうでこわいからで、決して恋人と一緒に寝るためではない。が、確かに正論だった。
「圭吾くん細いっていうか薄いから、ふたりで寝ても余裕だね」
「薄いって言うな」
もぞもぞとベッドに潜り込んで、圭吾くんの背中に自分の背中をくっつけたら、狭い、と言われた。これは理不尽だった。