幸福に触れたがる手(短編集)
「おまえ、合コンなんて行くの?」
「人数がどうしても揃わないみたいで。でも所詮は人数合わせなので」
「人数合わせだろうが、参加してんだから男どもには関係ないだろ」
「そうですか、ね……?」
「そりゃそうだろ。合コンなんて女食いに来るようなもんだ」
「く、食われませんよ、わたしは」
「どうだか」
「信じてないんですか?」
「信じられるほど長い付き合いじゃねえだろ」
「わたしは篠田さんを信じていますよ」
このあたりで、終わらせておけば良かった。
ムキにならずに、俺もおまえを信じてる、嫉妬して悪かった、って。言やあ良かったんだけど……。
「俺なら食うけどな。合コンで知り合った女の一人や二人」
「え、そうなんですか?」
「そりゃあ合コンに限らず、好みのモデルや女優がいれば持ち帰るだろ」
「……」
「おまえらが行く合コンや飲み会とはまず女のレベルが違うんだ」
「……」
彼女はすっかり黙ってしまって、ぼんやりと床を見つめていた。
いくらなんでも言い過ぎたと気付いたのは、彼女が笑顔で顔を上げ「そうですね」と言ったとき。
怒鳴ってくれれば。泣いてくれれば。素直に謝ることだってできただろうに。
笑顔で同調されたら何もできない。
ほんとこいつは物分かりが良くて……ひどい女だ。
「さ。もう夜も遅いですし、篠田さん明日も撮影ですよね。役者さんが目の下にくま作ったら大変ですよ」
「……」
「あ、お風呂はちゃんと湯船に浸かってくださいね。シャワーだけだと疲れが取れませんから」
「……ああ、じゃあ、今日はもう帰るわ」
「はい、おやすみなさい」
「……おやすみ」
喧嘩を長引かせないために反論をやめ、自分から謝ってくるなんて。
悪いのは俺なのに。ムキになっていたのも俺なのに。
こうぶった斬られたら、この話は終わりにするしかない。何の解決もしていないのに。
ただ彼女を傷つけただけだ。
彼女と付き合い始めてから、俺は少し我が儘になった。
彼女ともっと一緒にいたいし、彼女の作る料理を毎食食べたいし、男と親しくしてほしくもない。合コンなんてもっての外。
自分にこんな独占欲があるなんて、初めて知った。