幸福に触れたがる手(短編集)
次の日。予定よりだいぶ早く撮影が終わった。
真っ直ぐ帰ってもいいけれど、彼女に会えるわけでもない。今頃は合コンで楽しく飲んでいるはずだ。
昨日はついかっとなって、好みの女がいたら持ち帰るだとか、おまえらの飲み会とは女のレベルが違うだとか言ってしまったが。
そんなこと、思っているはずがない。
そもそも俺は彼女に一目惚れした。今まで会ったモデルや女優よりずっと可愛いと思った。
つまりは好みの女だったから、出会って数分で男女の関係になったわけで……。
彼女を信じていないわけじゃないが、俺みたいなやつもいるかもしれない。だから心配で仕方ない。
そんなことを考えながら駅までの道を歩いていたら、突然腕を引かれた。
振り返ると、前に映画で共演した子が、満面の笑みで立っていた。
「やっぱり亮太くんだ!」
「ああ。久しぶり」
「仕事帰り?」
「ああ、ドラマの撮影。そっちは?」
「今日オフだったの。ねえ、時間あるなら一緒にごはん食べに行かない?」
急な誘いに少し悩んだ。
部屋に行っても彼女はいないだろうが、夕飯は一応用意しておくと言っていた。
でも彼女がいない部屋でひとり寂しくそれを食べると思うと気が滅入る。彼女を悲しませたという罪悪感を抱えながら、彼女の帰りを待つ元気はない。
それなら、外で食ってもいいか。彼女だって合コンに行っているのだから。
「……じゃあ、行くか」
「やったあ! あたし行きたい店あるんだよねえ!」
そのまま、腕を引かれて歩き出した。