こちら、メディア検閲科
翌日の放課後、普段は近づきもしない職員室に俺は向かった。
相手は担任。
ヤバイことにならないうちに、
偶然であることを知らせなければ……

あくびをしながら目をこすって、担任は俺を見る。

「どーしたよサイトー。」

いざ尋常にこの気だるげな人と、勝負‼


「先生その、大学のことなんですけど…!」

「あ~昨日テレビ見たぞー。国立大受かったんだっけ?おめでとー」

周りの先生も気づいたのかしらん、こちらに向かっておめでとー、と言う。

こら、やめろ!俺はその入学を蹴るようにお願いしに来たんだよ!
言いにくい空気作るんじゃねぇ!

「あまりのふっとびだから俺びっくりしたー。あ、資料請求か?
お前見学すら行ってなかったもんな。
進路室行ったら腐るほどあるぞ。」

「そうじゃないんですよ!これは間違いなんです!」

俺の大声に、文字通り担任はキョトンとする。
他の先生も首をかしげた。

「間違いって、何が?」

考えろよ!根本的におかしいだろ‼
逆に何で間違いだと疑わないんだよ‼

「よくよく考えてみてください、先生‼最下位常連の俺が普通、国立大になんて行けますか?!そんな所に入ってやっていけると思いますか?!
てかテストの結果自体おかしいんですよ‼
俺はただマークでドラ〇もん書いてただけなんです‼
そんでもってたまたまあんな数字が出たんです‼
偶然ってことっすよつまり‼
もう一回テストしてください!絶対今度がた落ちしますから‼
そしたら入学取り消すよう協力して下さい‼
俺本当にこのままだとダメだから‼‼」

こんなにも、いっぺんにつらつら言ったのは始めてだ。
何か疲れる。

「サイトー……」

担任が呟く。
言いたいことは全て言った……
……分かってくれたか…?

「うん、うんうん。」

何か頷きだした。

「そうだよな、確かにおかしいよな。確かにな。」

「先生……‼」

「お前、自分にもっと自信持てよ。」

「ファ?!」

まさかのフェイント。

「きっと最下位ばっかだからこの栄誉に謙虚になっちゃってるんだなー。
安心しろよ、俺まだ担任になって間もないけどお前見てたし。
スマホと睨めっこしてニュース見てたんだろ?」

「違う‼それゲーム‼」


「カバーかけてた本も経済とかの評論なんだろ?」

「それラノベ‼」

「授業中にガリガリ何か書いてたな。世の中の方程式を立ててたんだろ?」

「落書きだよっ‼‼」

そんなこと出来てたら何で俺最下位常連なんだよ全く‼
苦労しねぇんだよ‼

「な~サイトー、落ち着けって。これもお前の秘めた才能だったんだよ。」

担任は何も分かっていなかったようだ。
何か語りだしたし……

「俺心配だったんだよお前の成績見て。得意分野ほとんどないんだなーって。
でも今回新しい科目が入ってきて、飛躍したんだろ?
やっと得意分野を見つけ出したってことなんだ。
せっかくのチャンスだろ?捨てるのはもったいねーよー。」

「いや、あのホント偶然なんですけど……」


もうダメ。何言ってもダメだこれ。
一応最後の望みを言ってみよう。

「先生俺ね、その、許可してもらった国立大行きたくないんすよ。
せっかくの名誉なんですけどね、俺多分その大学でやっていけないと思うんです。
もしもメディアリテラシーがもう一回あったら
先生も分かると思うんだけど、
本当に俺頭悪いから。そんな所に行って退学して、両親を悲しませたくないんですよ。  
もう一回だけテスト受けさせてもらって、入学取り消しする協力してもらえますか?
俺なんかのせいで、本気に行きたくても落とされる人がいたら、嫌なんですよ。テレビで公開された後で申し訳ないんですけど、自分に嘘はつきたくないので……」

「サイトー……」

すると、パチパチパチ……と拍手のような音が背後から聞こえた。
嫌な予感……

振り返るとケバいおっさんがいる。
肩までの髪は金髪。紫の口紅。
服装は今更の虎柄スーツ。
歳は50代くらい?
大阪のおばちゃんを男にした感じだよ。

「素晴らしい、素晴らしいわ、齋藤君。」

やめてよー、オネェ口調って嫌な予感ホント当たっちゃったよー。
オネェ口調のわりにめっちゃ声渋いし…

「テレビで一目見てからお話してみたいと思っていたの。此処の校長先生に謙虚な子だとは聞いたけど、まさかこんなにもだったとはねぇ。
謙遜は日本人の美徳よ。」

そして指輪だらけの右手を差し出してきた。

「メディア検閲科の辰岡です。よろしく。」

「……えっと、……はい。」


キツいわ
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