笑顔と猫とどんぶらこ～フーテンさきの歌紀行～
「このタオルで涙を拭いてください」
　どんなときでも優しいまなちゃんが、麦わら帽子姿の女性にタオルを差し出した。

　この場は、まなちゃんに任せておいて、短気なあたしは黙っておいたほうがよさそう。

「こ、こんにちは」
　まなちゃんとあたしの存在にやっと気づいてくれた麦わら帽子姿の女性は、顔を上げて挨拶してくれた。

　両頬が濡れていて、乾いた砂浜に小さな水溜りができている。

「お取り込み中のところ、ごめんなさいね。あなたの様子がおかしかったので、心配になって声を掛けてみたんです」
「そうだったんですか。気づくのが遅くなってしまって、どうもすみませんでした」
　ようやく泣き止んだ麦わら帽子姿の女性は、砂浜に座り込んだまま、まなちゃんとあたしに向かって頭を下げた。

　あたし一人だけだったら、麦わら帽子姿の女性を泣き止ませることはできなかったと思う。

　さすが、優しいまなちゃん。

「気にしないでいいんですよ。このタオルで涙を拭いてください」
　優しいまなちゃんが、再び麦わら帽子姿の女性にタオルを差し出した。

「どうもありがとうございます。タオルを使わせていただきますね」
　涙声で言った麦わら帽子姿の女性は、まなちゃんから受け取ったタオルで涙を拭いて、ゆっくりと立ち上がった。

「それでは、自己紹介をさせていただきますね」
　まなちゃんが砂浜に自分の名前とあたしの名前を書いた。

　相変わらず達筆な文字。

「まなさんとさきさんですね。どうも初めまして。私は、いちのせあやかと申します」
　涙声で自己紹介をしてくれたあやかさんも砂浜に自分の名前を書いた。

　一之瀬綾香。いかにも女の子らしい文字。

「私とさきさんは、東京の池袋から歩いて、ここまで来たんです。それでですね」
　まなちゃんが、あたしたちのことを知らない綾香さんに、この海岸に来るまでの経緯を説明した。
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