笑顔と猫とどんぶらこ~フーテンさきの歌紀行~
 ざっぱーん! ざっぱーん! ざっぱーん! ざっぱーん! 

 次から次へと日本海の荒波が襲い掛かってくる。
 沖へ進むにつれて、水深がどんどん深くなっていく。
 あたしの足も綾香さんの足も、海底についていない。
 どんなに高い波に襲われても、綾香さんの手は絶対に離さない。


 
 ざっぱ――――――――――――――――――――――――――――――ん! 



 ……………………煌びやかな光が見える。白色、水色、青色、群青色、紫色、黄色、オレンジ色、金色。いろんな色が混ざり合っている美しい光。こんなに美しい光を見たのは初めてかもしれない。ここは海の中なのだろうか。天国なのだろうか。あたしは、まだ生きているのだろうか。死んでしまったのだろうか。体は冷たいのに、手に温かい温もりを感じる。この温かさはなんだろう。確かに感触がある。あたしは誰かの手を握っている。この手は、綾香さんの手だ。あたしは綾香さんの手を握っている。しっかりと握り締めている。あたしは生きているんだ。この世界で生きているんだ。ここで死んでしまったら、旅は終わってしまう。何もかも終わってしまう。あたしは生きていたい。まなちゃんと一緒に旅を続けたい。もっともっと歌いたい。綾香さんに生きる喜びを伝えたい。綾香さんの手は絶対に離さない。何があっても絶対に離さない。綾香さんを死なせるわけにはいかない。



 生きろ! 生きるんだ! 綾香! 生きろ――――――――――――――――――
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