笑顔と猫とどんぶらこ~フーテンさきの歌紀行~
「綾香さん、あたしの歌を聴いてもらえませんか?」
「はい。ぜひ聴かせてください」
 今までずっと悲しげな表情を浮かべていた綾香さんが笑顔で返事をしてくれた。
 彼の存在を感じられたことで、気分が晴れたのだと思う。

「すぐにライブの準備をしますので、ちょっと待っててくださいね」
 あたしは砂浜を走りながら、即興で歌詞とメロディーを考えて、アコギを持って綾香さんとまなちゃんの元に戻った。

「それでは歌います。綾香さんに送る曲のタイトルは、いつまでも消えることのない永遠の愛の炎です」
 砂浜に座っている綾香さんとまなちゃんの前で、あたしはギター演奏を始めた。
 波の音より大きな声で歌う。綾香さんの心に響くように歌う。



 人を愛することって♪ どういうことなんだろう♪ あたしは本気で人を愛したことがないから♪ 愛というものが♪ どういうものなのかわからない♪ そんなあたしに愛を教えてくれた人がいる♪ その人の愛は♪ 日本海の荒波よりも大きくて♪ 空よりも宇宙よりも広くて果てしない♪ 
 人は限りある時間の中で生きている♪ 永遠は存在しないと思っているし♪ 存在してはいけないものだと思っている♪ でも愛は無限大♪ 愛の力は計り知れない♪ 永遠の愛は存在すると思っているし♪ 存在してほしいと思っている♪ 綾香と雄介の永遠の愛の炎は♪ いつまでも♪ いつまでも♪ いつまでも消えることはない♪



 大切な彼を失った綾香さんも、彼が出来そうなまなちゃんも、目に涙を浮かべながら、あたしの歌を聴いてくれた。綾香さんとまなちゃんの境遇は全く違うけど、恋をしていることに違いはない。
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