笑顔と猫とどんぶらこ～フーテンさきの歌紀行～
「出来ることなら、まなさんとさきさんと一緒に旅をしてみたいんですが、私は現在無職でして、貯金も使い果たしてしまったため、お金をあまり持っていないんです」
「旅費なら、私が出しますので、何も心配しないでください」
「お気持ちは嬉しいんですが、まなさんのお世話になるわけにはいきません」
「私はお金持ちなので、ぜんぜん大丈夫なんですよ。はい、十万円」

　まなちゃんの得意技を久しぶりに見て、あたしはちょっと笑ってしまった。

「まなちゃんは、こないだ銀行強盗をしたので、ものすごい大金持ちなんですよ」
「え、本当なんですか？」
　綾香さんが驚いた顔で聞いてきた。

「まなちゃんは、百億円も持っているんです」
「え、百億円も強奪したんですか？」
「冗談ですよ。まなちゃんは、悪いことなんてしません」
「冗談でしたか。一瞬、信じそうになりましたよ。あはははは！」
　綾香さんが大きな声で笑ってくれた。

「そういえば、さきさんと出会ったときに、銀行強盗の話をしましたね。あはははは！」
　まなちゃんも大きな声で笑った。

「あのときは、一瞬、本当かと思ったよ。あはははは！」
　あたしも大きな声で笑った。

　ついさっきまで、綾香さんのすすり泣く声で溢れていた砂浜が、三人の明るい笑い声で溢れている。
　
　笑うって素敵だな。笑顔って素晴らしいな。綾香さんとまなちゃんの笑顔は、まるで天使のような笑顔。
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