笑顔と猫とどんぶらこ~フーテンさきの歌紀行~
「それでは、失礼致します」
 綾香さんは麦わら帽子を被って、駅の改札をくぐっていった。

 その後ろ姿は堂々としているように見える。

 一週間前の綾香さんとは、まるで別人のよう。

「綾香さーん! またいつか! 三人で旅をしましょうね!」
 あたしは綾香さんに向かって、おもいっきり叫んだ。

「はい! またいつか! 三人で旅をしましょう!」
 綾香さんが振り向いて、あたしとまなちゃんに向かって手を振ってくれた。

 まなちゃんは泣きながら手を振っている。あたしも泣きたいくらい悲しい。でも、ここで泣くわけにはいかない。最後まで笑顔で見送らなければならない。



 綾香さんを乗せた電車はゆっくりと走り出し、その姿はどんどん小さくなっていった。

 今はお別れだけど、逢おうと思えば、またいつでも逢える。綾香さん、あたしとまなちゃんと一緒に旅をしてくれて、どうもありがとう。
 


 綾香さんと過ごした日々を振り返ってみて、あたしはこう思った。

 過去は、振り返るためにあるんじゃない。前に進むためにあるものなのだと。

 何はともあれ、あたしとまなちゃんに愛の素晴らしさを教えてくれた綾香さんに大きな幸せあれ★
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