笑顔と猫とどんぶらこ~フーテンさきの歌紀行~
 夜になっても雨が止まない。
 カプセルホテルもネカフェも二十四時間営業のファミレスもファストフード店もない。
 宿らしき建物はどこにも見当たらない。
 どこか野宿できるところを探さなければならない。

 コンビニに寄って、カップラーメンとおむすびと焼きそばパンと焼き鳥の缶詰を食べて腹ごしらえをした後、閑静な住宅街を歩き回り、屋根のある公園を見つけた。
 ここなら野宿できそう。あたしは公園で野宿をするのは初めてじゃない。もうかれこれ、二十回目くらいになる。屋根のある公園は素晴らしい。作った人を褒めてやりたい。屋根の下で眠れる。こんなに嬉しいことは他にない。いや、嬉しいことは他にもいっぱいある。

 公園の時計の時刻は、十時八分。住宅街はひっそりと静まり返っている。なんとも不気味な静けさ。

 安心して眠るため、盗難防止用チェーンで、自分の命の次に大切なアコギの入った防水ギターケースとリュックサックを柱に巻きつけた。
 万が一、盗まれたりでもしたら……。
 そんなことを考えてはいけない。
 この世の中に悪い人なんていない。
 いや、悪い人はいっぱいいる。
 全財産の入った財布を盗まれたら何もかも終わりだ。
 その時点で旅は終わってしまう。
 
 安全な隠し場所は……。胸の谷間だ。
 あたしは感度がすごくいい。
 ちょっと触られただけで感じてしまう。
 おっぱい防犯センサー。胸の谷間なら安心。

 カッパを脱いで、パジャマに着替えて、樹のテーブルの上で寝袋に入って横になり、全財産の入った財布を胸の谷間に挟んだ。
 寒くはないけど、本音を言えば、ちょっと怖い。これでもあたしは、か弱い乙女である。

 襲えるもんなら襲ってみやがれ! 返り討ちにしてやる!
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