笑顔と猫とどんぶらこ~フーテンさきの歌紀行~
「可愛らしいわんちゃんですね。この子の名前は何ですか?」
 まなちゃんがステテコ姿のおじいちゃんに尋ねた。

「んんー、なんじゃったかな」
「このわんちゃんは、おじいさんの飼い犬ですよね?」
「そうじゃよ」
「飼い犬の名前を忘れてしまったのですか?」
「うん。忘れてしまったんじゃよ」
「そうなんですか。思い出せるといいですね」
「うん。いつか思い出すじゃろ」

 はにかんだ笑顔でまなちゃんと会話しながら歩いているステテコ姿のおじいちゃんは、ちょっとボケているのだろうか。でも、話し方もしっかりしているし、ちゃんと自分の足で歩いているので、あたしは気にしないことにした。

「まだまだ先は長いから、ちょっと休憩しようか」
 ステテコ姿のおじいちゃんが熱中症になってしまったら大変なので、今まで以上にこまめな休憩が必要。

 あたしとまなちゃんとステテコ姿のおじいちゃんとブサイク顔の秋田犬とで、田んぼのあぜ道に座った。

「おじいさん、この水筒の水を飲んでください」
「ありがとう。遠慮なく飲ませてもらうよ」

 まなちゃんから水筒を受け取ったステテコ姿のおじいちゃんは、ものすごい勢いで水を飲み始めた。

 ぐびぐびぐびぐびぐびぐびぐび。実に見事な飲みっぷり。

 そんなに飲んだら! まなちゃんの分が無くなるだろ! 少しは遠慮しろよ! 自販機もコンビニも無いんだから! もっと大切に飲めよ! 自分ばかり飲んでないで! ブサイク顔の秋田犬にも飲ませてやれよ! などと言ってはいけない。ステテコ姿のおじいちゃんは、炎天下の中、頑張って歩いているため、喉がカラカラなのだ。
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