笑顔と猫とどんぶらこ~フーテンさきの歌紀行~
「いつの間にか、もう真っ暗ですね。おじいさんの家はどこなんですか?」
 まなちゃんがステテコ姿のおじいちゃんに尋ねた。

「んんー、どこじゃったかな」
「家の場所を忘れてしまったのですね。では、おじいさんのお名前を教えていただけますか?」
「わしの名前は……。んんー、なんじゃったかな」
「では、ご自宅の電話番号はわかりますか?」
「んんー、何番じゃったかな」
「ご家族はいらっしゃるんですか?」
「んんー、いたっけな」

 ステテコ姿のおじいちゃんは、まなちゃんの質問に何一つ答えられない。
 困ったような顔をしているので、ふざけているようには見えない。本当に忘れてしまっているよう。

「さきさん、ちょっといいですか」
 まなちゃんとあたしは、自慢げな表情で、西郷隆盛の話を始めたステテコ姿のおじいちゃんとブサイク顔の秋田犬の元から離れた。

「あのおじいさん、もしかしたら、認知症なのかもしれませんね」
「あたしもそうなんじゃないかと思ってたよ。頭に刺激を与えれば、思い出すかもしれないね。ちょっと頭を殴ってみようか」
「そんなことをしたらいけませんよ。交番に連れて行って、保護してもらいましょうか」
「んんー。それだと、なんだか可哀想な気がするんだ」
「では、どうしましょうか」

 まなちゃんと話し合って、ステテコ姿のおじいちゃんが自分のことを思い出すまで、このまま一緒に旅を続けてみることにした。
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