笑顔と猫とどんぶらこ~フーテンさきの歌紀行~
 ステテコ姿のおじいちゃんが、ブサイク顔の秋田犬とじゃれ合って遊んでいるうちに、あたしとまなちゃんとでテントを畳んで、みんなで歩いて南州神社に向かった。

 今日は時間が早いので、観光客がちらほらいる。

「西郷隆盛、生まれは文政十年十二月七日。数々の苦難を乗り越えて、薩長同盟、江戸城無血開城、西南戦争で活躍し……」
 南州神社に着いた途端に、ステテコ姿のおじいちゃんが昨日と全く同じことを話し始めた。

 あたかも初めてのように何度も同じ話をするステテコ姿のおじいちゃんは、どうやら本当に認知症のよう。

 このままでは、ずっとステテコ姿のおじいちゃんとブサイク顔の秋田犬と一緒に旅をすることになってしまう。家の場所を思い出してもらわないと困る。家族がいるなら、心配していると思う。

 いったい何をどうすれば、ステテコ姿のおじいちゃんは自分のことを思い出してくれるのか。

 やっぱり、頭に刺激を与えるべきか。でも、ステテコ姿のおじいちゃんの頭を殴ったら、まなちゃんに叱られてしまう。そもそも、そういう問題ではない。

 あたしの特技は歌うこと。頭にパッと閃いた。
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