笑顔と猫とどんぶらこ~フーテンさきの歌紀行~
「さあ、どうぞ、お上がりください」
「はい。お邪魔します」

 優しい笑顔で招いてくれた幸子さんに案内されて、あたしとまなちゃんはダイニングに通された。
 
 鈴木さんご夫妻の家はとても古いけど、隅々まで掃除が行き渡っていて、風通しがよく、とても住みやすそうな家。

「私の主人の相手をされて、さぞかしお疲れになったことでしょう」
「いえいえ、とっても楽しかったですよ。田吾作おじいさんが、西郷隆盛さんのお話をしてくれまして、私と将棋をしてくれたんです」
 まなちゃんが明るい声で昨夜の出来事を幸子さんに話した。

「やはり、そうでしたか。私の夫は、西郷隆盛と将棋が大好きでして、以前は近所の人たちとよく将棋をしていたんです」
 優しい笑顔で田吾作おじいちゃんのことを話してくれた幸子さんが、ダイニングのテーブルに麦茶とスイカを置いてくれて、幸子さんとあたしとまなちゃんとの三人でテーブルについた。

 田吾作おじいちゃんは、リビングの床に寝転がって、ぽちすけちゃんとじゃれ合って遊んでいる。
 本当に子供のようなおじいちゃん。あたしは思った。

「私の夫と一緒に過ごされて、お気づきになられたかと思いますが、私の夫は、認知症でして」
 幸子さんが悲しげな表情で田吾作おじいちゃんのことを話し始めてくれた。

 あたしとまなちゃんは、背筋を正して幸子さんのお話に耳を傾けた。
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