笑顔と猫とどんぶらこ~フーテンさきの歌紀行~
 みんなで晩ご飯を食べた後、幸子さんがあたしとまなちゃんに夫婦の思い出話を話してくれた。

 田吾作おじいちゃんと出会ったときのエピソード。
 新婚生活のエピソード。
 尾瀬に行ったときのエピソード。
 夫婦旅行のエピソード。
 何気ない日常のエピソード。
 介護の日々のエピソード。

 幸子さんは喜怒哀楽を素直に表現しているようで、あたしとまなちゃんにいろんな表情を見せてくれた。

「ぽちすけ、お腹が大きくなったのう」
 リビングの床に寝転がって、ぽちすけちゃんをたかーいたかーいしている田吾作おじいちゃんは、幸子さんの支えがあるから、元気でいられる。

 あたしもいずれは歳を取って、認知症になってしまうかもしれない。

 もし、自分が認知症になったとき、あたしには支えてくれる人がいるだろうか。
 まなちゃんや友達にお世話になるわけにはいかない。
 今のままでは、自分で自分のお世話をしなければならない。それでは寂しい。

「ごゆっくりとお休みになってくださいね」

 幸子さんがリビングに布団を敷いてくれたので、あたしとまなちゃんはパジャマに着替えて、ふかふかの布団に入って横になった。

 ぐがー、ぐがー、ぐがー。ぐげー、ぐげー、ぐげー。ぐごー、ぐごー、ぐごー。

 隣の部屋から田吾作おじいちゃんのイビキが聞こえてくる。今夜もぐっすり眠っているよう。昨夜はうるさく聞こえたけど、今夜はなんだか心地好く聞こえる。
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