笑顔と猫とどんぶらこ~フーテンさきの歌紀行~
「さきちゃん、まなちゃん、ご親切にありがとう。よかったら、私の家に上がっていかないかい?」
「はい。お邪魔させていただきます」

 あたしはかよちゃんをおぶったまま、玄関で靴を脱いで上がり、和室の畳の上にかよちゃんを降ろした。

 久しぶりにお風呂に入れる。あたしは心の中でガッツポーズをした。

「シップと包帯はありますか?」
 まなちゃんがかよちゃんに尋ねた。

 あたしはお風呂のことで頭が一杯になってしまっていて、かよちゃんの怪我のことを忘れてしまっていた。

 相変わらず面倒見の良いまなちゃんと面倒見の悪いあたし。

「台所の食器棚の上にあるよ」
「手当てをしますので、そのまま座っててくださいね」

 まなちゃんとあたしは和室の隣にある台所に行って、食器棚の上に置かれている救急箱から湿布と包帯を取り出した。

 すぐに和室に戻り、濡れタオルでかよちゃんの足を拭いてあげて、捻挫した右足首に湿布と包帯を巻いてあげた。

 これでひとまず安心。

「腫れが引くまでは、安静にしててくださいね」
 まなちゃんがかよちゃんに優しく声を掛けた。

「じゃあ、もう少し休ませてもらうかな。まなちゃんとさきちゃんは、お昼ご飯を食べたのかい?」
「まだ食べていません。かよちゃんは食べたんですか?」
「私もまだ食べていないよ。台所の食器棚の引き出しの中にソーメンが入っているから、茹でてくれるかい?」
「いいですよ」
 まなちゃんが笑顔で返事をした。

 またソーメンか。こないだ流しソーメンをしたばかりだから、あたしは冷やし中華のほうがいいな。ざるそばでもいいよ。などと言ってはいけない。せっかくご馳走してくれるのだから、文句を言わずに食べなければならない。
< 188 / 258 >

この作品をシェア

pagetop