笑顔と猫とどんぶらこ~フーテンさきの歌紀行~
「私はお風呂に入ってくるから、そのまま続けておくれ」
「はい。頑張ります」

 かよちゃんがお風呂に入っている間に、丸太を削りながら、まなちゃんと話し合って、彫刻が完成するまで、かよちゃん家に泊まらせてもらうことにした。

 そうしたほうが、かよちゃんが喜んでくれると思うし、中途半端なままで出発するわけにはいかない。



 お風呂から出てきたかよちゃん先生も丸太を削り始めて、みんなで楽しくおしゃべりをしながら、丸太を削っていった。

  とっても楽しそうに丸太を削り続けているかよちゃん先生の元気の秘訣は、リンゴと趣味の彫刻。

 高齢者の一人暮らしでも、好きなものや夢中になって打ち込める趣味があれば、元気でいられるのかもしれないとあたしは思った。

「いつの間にか、もうこんな時間だね。今日はここまでにして、また明日にしようか」
 かよちゃん先生が手を止めたので、あたしとまなちゃんも手を止めた。

 かよちゃん先生のアトリエの壁に掛けられた古い時計の針は、十時七分を指している。

 熱中していると、時間はあっという間に過ぎてしまうものだ。

「ご指導をありがとうございました。また明日もよろしくお願いします」

 優しく丁寧に指導してくれたかよちゃん先生に頭を下げて、削りかすを片付けて、和室に行って布団を敷いた。

 あたしとまなちゃんはパジャマに着替えて、かよちゃんは花柄の浴衣に着替えた。

「今日はいろいろとありがとう。ゆっくり休んでおくれ」
「はい。おやすみなさい」
「おやすみ」

 かよちゃんとまなちゃんが布団に入って横になったので、消灯係のあたしは部屋の電気を消してから、布団に入って横になった。

 今日はいろんなことがあったので、かよちゃんもまなちゃんも疲れたのだと思う。

 二人とも可愛らしい寝顔で、すやすやと寝息を立てている。

 あたしはなんだか眠れなくて、かよちゃんとまなちゃんの可愛らしい寝顔を交互に見つめながら、今日の出来事を振り返った。

「今年も立派に成長してくれたね」
 あたしとまなちゃんの間で眠っているかよちゃんが寝言を言っている。

 きっと、リンゴを収穫している夢を見ているのだと思う。
< 195 / 258 >

この作品をシェア

pagetop