笑顔と猫とどんぶらこ~フーテンさきの歌紀行~
 チュンチュンチュンチュン。

 可愛らしい鳥のさえずりを聞いて目が覚めた。

 雨風の音は全く聞こえない。雨戸の隙間から光が差し込んでいる。

 かよちゃんもまなちゃんもまだ眠っているので、あたしは二人を起こさないように静かに起き上がり、パジャマ姿のまま、靴を履いて庭に出た。

 昨日の嵐の影響だろうか。かよちゃんの大切なリンゴの樹の枝が折れてしまっていて、黄緑色のリンゴが地面に落ちてしまっている。

 樹にぶら下がっているリンゴの数は、十二個。地面に落ちてしまったリンゴの数は、二十一個。

 泥だらけになっても、水で洗えば食べられる。

 あたしは地面に落ちているリンゴを拾って、水で洗って食べてみた。

実がすかすかしていて、甘みはさほど感じられず、美味しく感じられなかった。

 自然の猛威とはいえ、せっかくここまで成長したリンゴが樹から落ちてしまったことは残念で悲しい。どのリンゴも真っ赤になりたかっただろうと思う。



 パジャマ姿のまま、樹から落ちたリンゴを拾い集めているうちに、かよちゃんとまなちゃんも庭に出てきた。

「残念だけど、仕方がないね」
 かよちゃんが悲しげな表情でつぶやいた。

 まなちゃんもとても悲しげな表情を浮かべている。

 あたしは何も声を掛けられず、地面に落ちているリンゴを黙々と拾い集めた。

「樹から落ちたリンゴは、リンゴジュースにするから、台所に運んでくれるかい」
 かよちゃんがにっこりと微笑みながら頼んでくれた。

 誰よりも悲しくて辛いのはかよちゃんなのに、辛い思いを胸に仕舞って、笑顔で振舞ってくれている。

 あたしとまなちゃんとでリンゴの入ったカゴを台所に運んだ。
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