笑顔と猫とどんぶらこ~フーテンさきの歌紀行~
 運転免許試験場のある二俣川を通り過ぎて、線路沿いの道を歩いていき、遠くの空がオレンジ色に染まり始めてきた頃、横浜駅に着いた。
 お昼ご飯が早かったので、お腹がペコペコ。
 パチンコ屋のトイレに入って小綺麗な服に着替えて駅前のデパートに入り、一目散に食品売り場に向かった。
 美味しそうな食材がずらりと並んでいる。今夜の晩ご飯は、デパ地下の試食品。

「こんばんは。この試食品を食べてもいいですか?」
 あたしはテンガロンハットを脱いで、お惣菜売り場の店員さんに聞いてみた。
「はい。どうぞお召し上がりください」
 お惣菜売り場の店員さんは、笑顔で割り箸を手渡してくれた。
「遠慮なくいただきます」
 まずはホウレン草とゴマの和え物。むしゃむしゃむしゃむしゃむしゃ。ゴマの風味が効いていて、とっても美味しい。日本酒を飲みながら食べたいところだ。ぜんぶ食べてもいいのだろうか。店員さんの視線が気になる。今はこのくらいにしておいてやろう。

 食べだめが出来ればいいのにって思う。人間は、食べだめも飲みだめもできない不便な生き物。などと考えてはいけない。毎日毎日、いろんな物を食べられる喜び。食べることは生きること。
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