笑顔と猫とどんぶらこ~フーテンさきの歌紀行~
「ここでお別れするのは本当に残念です。旅を続けられなくなってしまって、本当にごめんなさい」
「まなちゃんが謝ることはないよ。あたしはね、まなちゃんからいろんなものをいっぱいもらったんだよ。まなちゃんは、あたしにいろんなものをいっぱい与えてくれたんだよ。有名作家さんと友達になれて、ものすごく嬉しいな」
「友達なんて言い方はしないでください。さきさんと私は、姉妹以上の関係ですよ」
「そうだね。あたしとまなちゃんは、姉妹以上の関係だもんね」

 あたしとまなちゃんの旅は、もう少しで終わってしまうけど、さきとまなは、いつまでも仲良し姉妹のままだと思う。

「お金は残っていますか?」
「心配しなくても大丈夫だよ。まなちゃんの分まで頑張って歩いて、必ず宗谷岬に行くからね」
「はい。それでは、このテントとLEDランタンとかよちゃん家で作った猫の彫刻を受け取ってください」

 まなちゃんがいろんな思い出が詰まっているテントとLEDランタンと可愛らしい猫の彫刻を手渡してくれた。

「ありがとう。大切に使わせてもらうね。宗谷岬に着いたら、誰かにスマホを貸してもらって、まなちゃんに画像を送るね」
「はい。楽しみにしています。何かあったときは、飛行機に乗って駆けつけますので、私に連絡してくださいね」
「うん。何かあったら連絡するね」
 あたしは歯を食いしばりながら、ベンチから立ち上がった。何か大切なことを忘れているような気がする。
「あ、そうだ。旅の途中でまなちゃんの歌を作ったんだよ。宗谷岬で歌う予定だったんだけど、ここで聴いてもらえるかな」
「はい! ぜひ聴かせてください!」
 いつもの愛らしい笑顔で返事をしてくれたまなちゃんもベンチから立ち上がった。

 あたしとまなちゃんはターミナルの外に出た。



 本州最後の路上ライブは、青函フェリーターミナルの前。観客は、まなちゃんと海老原さん。小銭稼ぎのための路上ライブではないので、ココアの缶を置く必要はない。

「それでは歌います。まなちゃんへのプレゼントソングのタイトルは、まなの愛らしい笑顔です」
 あたしはアコギを持って、まなちゃんと海老原さんに向かって頭を下げた。

 二ヶ月くらい掛けて作ったまなちゃんの歌。あたしの自信作。
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