笑顔と猫とどんぶらこ~フーテンさきの歌紀行~
「あ、いつの間にか、靴紐がほどけていました。結び直しますので、ちょっと待っててくださいね」

 靴紐はほどけていない。あたしの胸の谷間を大地さんに見せつけるための作戦だ。

 名付けて『大地さんに乳首を見られちゃったらどうしよう。嬉し恥ずかしハラハラドキドキワクワクおっぱいポロリポロリ大作戦』ちょっちゅ長いし、あまりにもくだらなすぎる。自分でも馬鹿だと思う。

「わあ、すごく大きい」
 大地さんが声を上げた。

 あたしの思惑どおり、大地さんはあたしの胸の谷間を見ているようだ。

 男はみんなおっぱいが好き。もっと胸の谷間を見せつけるため、あたしはさりげなくキャミソールの肩紐を外した。

「あ、キャミソールの肩紐が外れてしまいました。両手が塞がっていますので、直していただけませんか」
 ものすごくわざとらしい。自分でもちょっと笑える。

「あ、はい」
 大地さんの手が肩に触れた。

 あたしの乳首はもうびんびんに勃っている。今にも母乳が吹き出しそうだ。

 あたしの新鮮なミルクを大地さんに飲ませてあげたい。爽やかな草原で乳搾り。ついでに豆搾り。なんていうのは冗談だ。ふしだらな女と思われたくないので、お色気攻撃はここまで。アタック開始。

「あの、もしよかったら、これから食事に行きませんか?」
「お誘いいただいて嬉しいのですが、今日中にパッチワークの路を巡りたいので、僕はこの辺で失礼します」
「え、あ、ちょっと待ってください」
 慌てて呼び止めてみたものの、大地さんは一度も振り返ることもなく、そそくさと歩いていってしまった。

 良い雰囲気だと思っていたのはあたしだけ。勘違いもいいところだ。
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