笑顔と猫とどんぶらこ~フーテンさきの歌紀行~
「にゃあ」

 道端に座り込んだまま、焼き鳥の缶詰をやけ食いしていたとき、どこからか、猫の鳴き声が聞こえてきた。

 こんな何もないところに猫がいるのかと、立ち上がって周囲を見回してみたところ、一匹の猫の姿が視界に入った。

 焼き鳥の缶詰の匂いに惹かれてきたのだろうか。茶トラ模様の猫がそろりそろりと歩いて、あたしの方に近づいてくる。

「お腹が減ってるの?」
 あたしが話し掛けた途端に、茶トラ模様の猫は立ち止まった。

 にらめっこしましょう♪ あっぷっぷ♪

 いきなり、にらめっこの歌を歌ったあたしのことを警戒しているのだろうか。焼き鳥の缶詰を見せても、茶トラ模様の猫はその場にじっとしたままで、あたしに近づいてこようとしない。

 動物との出会いも第一印象が大事。さっきのことは忘れて、笑顔にならなければならない。

「何もしないから大丈夫だよ。こっちにおいで」

 あたしの笑顔を見て警戒心が緩んだのだろうか。茶トラ模様の猫は逃げようとはせず、そろりそろりと歩いて、あたしに近寄ってきた。

 野良猫なのだろうか。首輪も鈴もつけられていなくて、体が痩せ細っている。
< 229 / 258 >

この作品をシェア

pagetop