笑顔と猫とどんぶらこ~フーテンさきの歌紀行~
「きみの名前は、今日から、ちゃとらんだよ。どう? 気に入ってくれた?」
「にゃあ、にゃあ、にゃあ」
「あはっ、気に入ってくれたんだね」
「にゃあ、にゃあ、にゃあ、にゃあ、にゃあ」
「ちゃとらんは、歌が好き?」
「にゃあ」
「ちゃとらんも歌が好きなんだね。あたしの歌を聴いてくれる?」
「にゃあ、にゃあ、にゃあ」
「ちゃとらんの歌を作るから、ちょっと待っててね」
「にゃあ」

 すっかりあたしに懐いてくれたちゃとらんを地面に下ろして、道端に座って作詞作曲用のノートを開いた。アコギを弾きながら、ちゃとらんの歌を作った。

「それじゃあ、歌うね。物語風の曲のタイトルは、さすらいの旅猫、ちゃとらんだよ」
「にゃあ」

 自由気ままに流れゆく雲のように♪ 風に吹かれるまま♪ 気の向くまま♪ ぼくは旅をしてるのさ♪ 夏場は暑くて大変だったよ♪ ちょっと寒くなってきたから♪ 幻のおしるこを食べに♪ 知床岬に行こうかと思ったんだ♪ ぼくは甘いものも辛いものも好きなんだ♪ なんだか良い匂いがするな♪ ふらりと立ち寄った美瑛の丘で♪ 焼き鳥の缶詰を持ってる人を見かけたのさ♪ ぼくは猫だけど♪ 人の言葉がわかるんだよ♪ 焼き鳥の缶詰は♪ ぼくの大好物♪ 食べてみたいな♪ ぼくにくれないかな♪ 焼き鳥の缶詰を持ってる人の顔を見つめていたら♪ ぼくにご馳走してくれたんだ♪ 久しぶりの焼き鳥の缶詰♪ それはそれは美味しかったよ♪ あまりの美味しさに♪ おかわりしちゃった♪ 親切なさきおばちゃんが♪ 名無しだったぼくに名前を付けてくれたんだ♪ ぼくの名前は今日からちゃとらん♪ 初めまして♪ よろしくね♪ にゃあ♪

「ちゃとらんの歌はどうだった?」
「にゃあ、にゃあ、にゃあ」
 喜んでくれたのだろうか。ちゃとらんは立ち上がって、前足を合わせている。

「拍手してくれたの?」
「にゃあ」
「そっかあ。ありがとう。ちゃとらんも歌ってみる?」
「にゃあ、にゃあ、にゃあ」
「それじゃあ、ギターのリズムに合わせて歌ってみてね」
「にゃあ」
 あたしは歌わずに、ギター演奏に集中した。
< 232 / 258 >

この作品をシェア

pagetop