笑顔と猫とどんぶらこ~フーテンさきの歌紀行~
 あたしのお腹の上で眠っていたはずの、ちゃとらんの姿が消えていた。

 すぐにテントから出て、あちこち捜し回ってみたけど、ちゃとらんを見つけることはできなかった。

 昨日の出来事は夢だったのだろうか。こう見つからないと、そんな気がしてきてしまう。

「ちゃとらーん! 早く戻ってきて!」
 あたしはおもいっきり叫んだ。

 ちゃとらんと一緒に旅をしたい。ちゃとらんの歌をまた聴きたい。

 どうにもこうにも諦め切れず、テントの前で待っていたところ、ちゃとらんが戻ってきてくれた。

「ちゃとらん、おかえり。どこに行ってたの? すごく心配してたんだよ」

 焼き鳥の缶詰をご馳走したお礼に、朝ご飯を用意してくれたのだろうか。虫のようなものを口に咥えているちゃとらんが、あたしを見つめている。

 旅のルール、その一。動物の親切も素直に受ける。

 ちゃとらんの好意は動物の親切。せっかく捕まえてきてくれたのだから、食べないわけにはいかない。
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