笑顔と猫とどんぶらこ~フーテンさきの歌紀行~
「茶トラ模様の猫を見かけませんでしたか?」
「事故現場に、猫の姿はなかったので、たぶん、無事かと思います」
「そうですか」

 作業着姿のおじさんの話を聞いて、あたしは安心した。

 ちゃとらんは無事でいるに違いない。

 早くちゃとらんに逢いたい。早くちゃとらんを探しに行かなければならない。病室で休んでいる暇はない。体が痛いなんて言っていられない。

 あたしはベッドから起き上がり、退院の手続きを済ませて、お世話になった看護師さんと作業着姿のおじさんに頭を下げて病院から出た。

 あたしの腕時計の時刻は、四時二十八分。事故に遭ってから、丸一日以上経っている。ちゃとらんが今どこでどうしているのかわからない。きっと、お腹を空かしているに違いない。

 旅のルール、その一。何があっても最後は笑顔でいる。

 ちゃとらんが見つからなかったとしても、宗谷岬に着いたときは、笑顔でいなければならない。
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