笑顔と猫とどんぶらこ~フーテンさきの歌紀行~
「にゃあ」

 痛い足を引きずりながら歩いていたとき、どこからか、聞き覚えのある猫の鳴き声が聞こえてきた。

「ちゃとらんなの?」
 その場に立ち止まり、周囲を見回してみたところ、植木の中から飛び出してきた茶トラ模様の猫の姿が見えた。

「ちゃとらん! 無事だったんだね!」
「にゃあ、にゃあ、にゃあ」

 ちゃとらんがあたしの方に向かって真っ直ぐに走ってくる。どこにも怪我はしていないよう。

「ちゃとらん! ちゃとらん! ちゃとらん!」
「にゃあ! にゃあ! にゃあ!」

 ちゃとらんがあたしの体に飛びついてきた。嬉しいなんてものじゃない。ちゃとらんが無事で良かった。本当に良かった。

「あたしの後を追いかけてくれたの?」
「にゃあ」
「そっかあ。心配掛けて、ごめんね」
「にゃんにゃんにゃん」

 あたしは感激のあまり、ちゃとらんを抱き上げた。
 
 たかーい! たかーい! たかーい! たかーい! たかーい! 

 ちゃとらんと再会できて、ものすごく嬉しい。でも、喜んでばかりはいられない。

「道路に飛び出したらダメだよ!」
 あたしはわざと怖い顔になって、大きな声でちゃとらんを叱った。

「にゃんにゃんにゃん」
 反省しているのだろうか。怖がっているのだろうか。あたしに叱られたちゃとらんは、右前足で目を擦っている。

「絶対にあたしの傍を離れないでね」
 叱った後は優しく。あたしはにっこりと微笑みながら、ちゃとらんの頭を撫でた。

「にゃんにゃんにゃん」

 反省している様子のちゃとらんによく言って聞かせた後、スーパーに行って、焼き鳥の缶詰とキャットフードを大量に買い込んだ。

 交通事故に遭って時間をロスしてしまい、旭川市内まで戻ってしまったので、同じ道を歩かなければならないけど、ちゃとらんと一緒なら、苦にならない。
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