笑顔と猫とどんぶらこ~フーテンさきの歌紀行~
 旭川から和寒へ。和寒から士別へ。士別から名寄りへ。名寄りから美深へ。美深から音威子府へ。音威子府から中頓別へ。

 交通事故でロスした時間を取り戻すため、雨の日も風の強い日も、ちゃとらんと一緒に歩き続けて、函館を出発してから、三十一日目にして、浜頓別という小さな街にたどり着いた。

「ちゃとらん! 海が見えるよ!」
「にゃあ」

 久しぶりの潮風を肌で感じながら、ちゃとらんと一緒に海に向かって走っていき、オホーツク海の荒々しい波が打ち寄せる浜辺に降り立った。

 波が荒いせいなのか、風が冷たいせいなのか、気温が低いせいなのか、浜辺には人っ子一人いない。

「ちゃとらんは、海を見るのは初めてなの?」
「にゃあ」
「そっかあ。あたしの水着姿を見たい?」
「にゃんにゃんにゃん」

 猫とはいえ、ちゃとらんも男だ。あたしの水着姿を見たいと思っているに違いない。

「ちゃとらんは、黒色の水着と水色の水着とどっちが好き?」
「にゃあ」
「水色の水着だね」
 あたしは勝手に判断して、ちゃとらんの目の前で水色のTバックビキニに着替えた。

「あたしのお尻はどう? きれい?」
「にゃにゃにゃん」
 恥ずかしがっているのだろうか。ちゃとらんは前足で目を隠している。

「バック! バック! バックオーライ! 車庫入れ完了だよ! そんなに恥ずかしがらないで、あたしのお尻をもっとよく見て」
 貸し切り状態の砂浜の上で四つん這いになって、意味不明なことを叫びながら、猫のちゃとらんにお尻を見せつけているあたし。自分でも変態だと思う。

「淫らな行為をして、ごめんね」
「にゃにゃにゃにゃん」

 いつまで経っても馬鹿なあたしに優しく接してくれるちゃとらんのために、淫らな行為は二度としない。あたしは心に固く誓った。

 Tバックビキニ姿ではさすがに寒い。水着から服に着替えて砂浜に座り、ちゃとらんを膝に乗せて、北海道の地図を見た。

 ここから宗谷岬まで、あと五十キロくらい。あたしの旅は、いよいよ終わりを迎えようとしている。なんだかちょっぴり切なさを感じる今日この頃。
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