笑顔と猫とどんぶらこ~フーテンさきの歌紀行~
14 お空に浮かぶ焼き鳥の缶詰のお城

 いつの間にか、九月も下旬。

 朝晩の冷え込みがより一層厳しくなってきた。キャミソールとデニムのショートパンツ姿ではさすがに寒い。あたしはジーンズを履いて、パーカーを羽織った。



 今朝は、濃厚な海霧が立ち込めていて、視界がかなり悪い。もう二度と交通事故に遭わないように、あたしの真横をちょこちょこと歩いているちゃとらんに注意を払いながら、宗谷岬に向かって黙々と歩き続けた。

 多くの乗客を乗せた大型の観光バスが、脇道を歩いているあたしとちゃとらんを次々に追い越していく。

 もうすぐ。もうすぐ。もうすぐ宗谷岬。



「ちゃとらん! ここが宗谷岬だよ!」
「にゃあ!」

 藤沢のアパートを出発してから、百十七日目にして、日本最北端の地、宗谷岬にたどり着いた。

「まなちゃーん! 宗谷岬に着いたよ!」
 あたしは両腕を空に向かって高く上げて、深い濃紺色のオホーツク海に向かっておもいっきり叫んだ。

 あたしはやりきった。まなちゃんとの約束を果たした。自分の足で歩き続けて、宗谷岬までやって来た。なんとも言えない達成感。感無量どころじゃない。あたしは嬉しさのあまり、ちゃとらんを抱き上げた。

 ばんざーい! ばんざーい! ばんざーい! ばんざーい! ばんざーい!

 あたしの嬉しさが伝わったのだろうか。ちゃとらんは前足を高く上げて、ばんざいポーズをしている。
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