笑顔と猫とどんぶらこ~フーテンさきの歌紀行~
 ちゃとらんと一緒に空を飛び回っている夢を見て目が覚めた。

 空中に焼き鳥の缶詰のお城が浮かんでいて、あたしとちゃとらんの背中に鶏のような羽根が生えていた。

 あんなにメルヘンチックな夢を見たのは初めてかもしれない。エッチな夢は、もう二度と見ないかもしれないと思う今日この頃。

「にゃあ、にゃあ、にゃあ」
 ちゃとらんは今日も朝から元気一杯。爽やかな青空の下、長い尻尾をふりふりしながら走り回っている。

「ちゃとらーん! そろそろ朝ご飯を食べようか!」
「にゃあ!」
 あたしに呼ばれたちゃとらんは、長い尻尾をふりふりしながら走ってきて、お椀に顔を埋めて、甘辛い焼き鳥を食べ始めた。

「今日も鶏さんに感謝するんだよ」
「にゃあ」

 今では当たり前のようになった、あたしとちゃとらんとの何気ないやり取り。

 このささやかな幸せが、いつまでも続いてほしいと思う今日この頃。



 あたしの大切な家族であるちゃとらんを、宗谷岬に置いていくわけにはいかない。
 
 朝ご飯を食べて、テントを畳んだ後、公衆電話から、まなちゃんに電話を掛けて、猫の輸送費を調べてもらった。

「宗谷岬から東京までだと、五万円以上掛かるとのことです」
「そんなに掛かるんだ」
「お金のことなら心配しないでください。さきさんの飛行機代もちゃとらんの輸送費も、私が出します」
「まなちゃんの好意は嬉しいんだけど、自分でなんとかするね」
「そうですか。さきさんなら、そう言うと思っていました」
「本当にいろいろとありがとうね。それじゃあ、また連絡するね」

 電話を切った後、宗谷岬公園の芝生の上に座った。

 ちゃとらんを膝に乗せて、財布の中身を確認した。

 所持金は、少ない。これからどうしたもんか。あたしの膝の上で前足をぺろぺろしているちゃとらんの頭をなでなでしながら考えた。

 太陽さんは今日も元気。月さんも元気。空さんも元気。雲さんも元気。風さんも元気。海さんも元気。あたしもちゃとらんも元気。



 人生、生きていればなんとかなる。
< 257 / 258 >

この作品をシェア

pagetop