笑顔と猫とどんぶらこ~フーテンさきの歌紀行~
「さきさんは、いつもこの場所で路上ライブを行っているんですか?」
「ううん。池袋で路上ライブをやったのは、今日が初めてだよ」
「そうなんですか。今日はどうして池袋で路上ライブを行ったんですか?」
「あたしは一人旅をしている最中でね。旅費を稼ぐために路上ライブをやってるんだ」
「そうなんですか。売るものは違いますが、さきさんはフーテンの寅さんみたいですね」
「そんなに若いのに、寅さんを知ってるんだ」
「私は寅さんの大ファンなんです。DVDも全部持ってます」
「へえ、まなちゃんは寅さんフリークなんだね。あたしは年中旅に出ているわけじゃないから、寅さんとは違うかな」
 あたしも寅さんは好きだけど、別に寅さんを意識して旅をしているわけじゃない。なんとなく旅に出たくなったから、旅をしているだけ。

「寅さんじゃないにしても、一人旅ができていいですね。さきさんは、どこから来たんですか?」
「あたしは、神奈川県の藤沢市から来たんだよ」
「藤沢市と言いますと、江ノ島のある街ですよね?」
「そうだよ。まなちゃんは、どこに住んでるの?」
「私は、ずっと葛飾区で暮らしています」
「まなちゃんは、江戸っ子なんだね」
「はい。わたくし、生まれも育ちも東京葛飾です。葛飾区内の病院でうぶ湯を使い、姓は山下。名はまな。人呼んで、めがねっ子まなと発します。ちょっと寅さんの真似をしてみました。あはははは!」
 愛らしい笑顔で笑っているまなちゃんは、ちょっと変わった子だと思うけど、人が良さそうな感じに見える。
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