笑顔と猫とどんぶらこ~フーテンさきの歌紀行~
「あたしは二十九歳なんだけど、まなちゃんは何歳なの?」
「私は、二十五歳です」
「まなちゃんは、二十五歳なんだ。実年齢より若く見えるね」
「そんなことないですよ。さきさんは、晩ご飯を食べましたか?」
「ううん。まだ食べてないよ」
「それなら、私と一緒に食事をしませんか? このすぐ近くに美味しいラーメン屋さんがあるんですよ」
「ラーメンいいね。それじゃあ、今夜はまなちゃんと一緒に食事しようかな」
「はい! 案内しますので! 私についてきてください!」

 池袋駅前の路上ライブで知り合ったまなちゃんに案内されて、つけ麺で有名なラーメン屋さんに入り、二人席に座った。

 旅に出てから二人で食事をするのは初めてなので、なんだかちょっぴり嬉しい。

「私がおごりますので、何でも遠慮なく注文してくださいね」
「まなちゃんの好意は嬉しいんだけど、ついさっき、二万円も貰ったし、自分の分は自分で払うからさ」
「そんなこと言わないでください。旅先での親切は素直に受けないといけませんよ。寅さんだって、いつも誰かにお世話になっているじゃないですか」
「まあ、それはそうだと思うんだけど……」
 あたしはまなちゃんの顔を見つめながら考えた。
 
 旅のルール、その一。人の親切は素直に受ける。

 まなちゃんの好意は人の親切。でも、年下の子におごってもらうわけにはいかない。

 どうしてまなちゃんは、初対面のあたしにこんなに親切にしてくれるのか。そんなにあたしのラブソングが気に入ったのだろうか。何か訳があるのか。

 あたしはメニューを見ながら考えて、まなちゃんの好意を素直に受けることにした。

「それじゃあ、遠慮なく注文させてもらうね」
 あたしは、つけ麺と餃子とライスと生ビールと日本酒を注文して、まなちゃんは、つけ麺と半ライスを注文した。
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