笑顔と猫とどんぶらこ~フーテンさきの歌紀行~
「いただきます」
 割り箸を割って、まずはつけ麺から食べてみた。

 さすが有名なラーメン屋さんだけあって、麺もスープも美味しい。

 まなちゃんも美味しそうに食べている。

「すごく美味しいね」
「はい。病み付きになる味です」
 愛らしい笑顔でつけ麺を食べているまなちゃんは、食事中もチロリアンハットを被ったまま。

 脱がない理由が何かあるのか。さっきは冗談だと言っていたけど、本当に銀行強盗をしたのだろうか。

 まなちゃんは指名手配中の犯人なのだろうか。

「食べながらでいいので、私の話を聞いてもらえませんか?」
 まなちゃんは、つけ麺を食べる手を止めて、真剣な表情で言ってきた。
「うん。いいよ」
 あたしはすぐに返事をして、まなちゃんの顔を見つめながら考えた。

 何か悩み事でもあるのだろうか。
 何か隠し事でもあるのだろうか。
 何か秘密でもあるのだろうか。
 指名手配中の犯人であることを、あたしに打ち明けようとしているのだろうか。

 とにかくいろんなことを想像してしまう。

「私は、寅さんを見たときから、ずっと一人旅に憧れていたんです。でも、一人旅をする勇気が無くて、仕事が忙しいせいもあって、なかなか旅に出られなかったんです。そんなとき、大きなリュックサックを持っているさきさんを見かけて、もしかしたら、さきさんは旅人なのではないかと思ったんです」
「それで、あたしに声を掛けてきたんだね」
「はい。そうです」
 正直なところ、あたしはがっかりした。なぜかと言うと、まなちゃんがあたしのラブソングを気に入ってくれたと思っていたから。
< 40 / 258 >

この作品をシェア

pagetop