笑顔と猫とどんぶらこ~フーテンさきの歌紀行~
「あたしは無職なんだけど、まなちゃんは何の仕事をしているの?」
「私は、普通のOLです」
 まなちゃんは強い口調で答えた。

 普通のOLなのに、どうしてお金持ちなのだろうか。
 どうしてこんなに太っ腹なのだろうか。
 貯金をいっぱい持っているのだろうか。

 もう聞かないようにするね。と言ったからには、聞くわけにはいかない。

「それで、さきさんにお願いがあるんです。私を連れて行ってもらえませんか?」
「え、あたしと一緒に旅をしたいってこと?」
「はい。さきさんと一緒に旅をしてみたいです」

 正直なところ、あたしは戸惑ってしまった。なぜかと言うと、旅はずっと一人で続ける予定だったから。

「ダメですか?」
 まなちゃんが心配そうな顔で聞いてきた。

「ダメというわけじゃないんだけど……」
 あたしはまなちゃんの顔を見つめながら考えた。

 旅のルールの中に、二人旅をしてはいけないというルールはない。

 明るい性格のまなちゃんと一緒に旅をしたら、さぞかし楽しいだろうと思う。でも、今すぐには決められない。どうするあたし……。

「旅は道連れ世は情け。という言葉があるじゃないですか。旅は一人より二人のほうが楽しいと思いますよ」
「まなちゃんの言うとおりだと思うんだけど、仕事を休んでも大丈夫なの?」
「全く使っていない有給休暇を取得すれば、ぜんぜん大丈夫です。さきさんがOKしてくれたら、明日にでも会社に電話して、有給休暇を取得しようと思います」
「有給休暇を取得すれば、会社を休んでも大丈夫なんだね」
「はい」
「それじゃあ、OKの返事をする前に、旅のルールを説明するね」

 あたしは生ビールを飲みながら、まなちゃんに旅のルールを説明してみた。

 二人旅になっても、旅のルールは必ず守る。
 ルールを一つでも破ったら、その時点で旅は終了。

「……変わったルールですね」
 まなちゃんは驚愕の表情を浮かべている。

 日本昔話をアレンジシした、くだらないルールがいくつもあるので、まなちゃんが驚くのも無理はないと思う。
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