笑顔と猫とどんぶらこ~フーテンさきの歌紀行~
「かんぱーい!」
 あたしとまなちゃんは、生ビールのジョッキをカチンと合わせて乾杯した。

「すごく美味しいですね」
 にこにこと微笑みながら、生ビールを美味しそうに飲んでいるまなちゃん。可愛い妹が出来たみたいで嬉しい。

「さきさんは、今夜はどこに泊まるんですか?」
「今日は稼ぎが良かったから、カプセルホテルに泊まろうと思ってるんだ」
「カプセルホテルは狭いですよ。私と一緒にラブホテルに泊まりませんか?」
「え、ラブホに泊まるの?」
 まなちゃんはレズなのだろうか。あたしはレズっ気はない。男が好きだ。

「あはははは! 冗談ですよ。私はレズではありません」
「なんだ、冗談か。まなちゃんは冗談好きなんだね」
「冗談好きというわけではないんですが、さきさんと一緒にいると、ありのままの自分でいられるんです。ビジネスホテルに泊まりませんか?」
「ビジネスホテルは高いからなあ」
「私がホテル代も出しますよ。はい、三万円」
 まなちゃんが財布からお札を取り出して、あたしに三万円を差し出した。

「三万円も受け取れないよ。さっきも言ったとおり、自分の分は自分で払うようにするからさ」
 あたしは両手を振って断った。

「冗談ですよ。さきさんに言われたことは必ず守ります。ご迷惑をお掛けすることがあるかもしれませんが、こんな私でよければ、改めてよろしくお願いします」

 笑ったり、ふざけたり、急に真面目になったり。まなちゃんは、なんとも不思議な子だと思う。
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