笑顔と猫とどんぶらこ~フーテンさきの歌紀行~
「その服装じゃ、歩きにくいと思うから、一度家に帰って、旅の準備をしたほうがいいんじゃないかな」
「スカートではダメですか?」
「ズボンのほうがいいと思うよ」
「そうですか。家には帰りたくないんです。明日にでも、アウトドアショップに行って、旅に必要な物を揃えようと思います」
 今までずっと明るい顔で話していたまなちゃんの顔が急に暗くなった。

 やっぱり、何か事情があるのだろうか。
 警察から逃げているのだろうか。

 すごく気になるけど、余計な詮索はしないほうがよさそう。

「どうもご馳走様でした」
 あたしとまなちゃんは席を立ってお会計をして、ラーメン屋さんから出た。

 コンビニに寄ってお菓子を買って、池袋駅前のビジネスホテルに入った。

 綺麗なホテル。田舎物のあたしには似合わない。

「部屋は、私と一緒でいいですよね」
「うん。いいよ」

 まなちゃんはホテルに泊まり慣れているのだろうか。
 チェックインの手際がとてもスムーズ。
 綺麗なビジネスホテルの宿泊料金は、一泊二日、朝食付きで、一万二千円。
 かなり痛い出費だけど、チェックインを済ませてしまったので、泊まるしかない。

「それでは、部屋に行きましょう」
 まなちゃんと一緒にエレベーターに乗って五階に上がり、廊下を歩いてツインルームに入った。ちょっとした修学旅行気分。

 わーい! わーい! わーい! ベッドだ! ベッドだ! ベッドだ!

 ふかふかのベッドの上で、子供みたいにはしゃいでいるあたし。これじゃあ、貧乏人丸出しだ。
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