笑顔と猫とどんぶらこ~フーテンさきの歌紀行~
 みーちゃん、ただいま。さきちゃん、おかえり。

 アパートのドアを開けた瞬間に、あたしの部屋に住み着いているゴキブリのみーちゃんと会話をする。
 自分でも寂しい日課だと思う。
 一匹一匹、名前を付けて呼ぶのはめんどくさいので、ちびっこゴキブリも大きなゴキブリも動きの遅いゴキブリもすばしっこいゴキブリも、みーちゃんと呼んでいる。

 テン♪ テン♪ テレンテン♪ テン♪ テン♪ テレンテン♪ 

 みーちゃんたちのいる部屋で、エイミーマンのワイズアップを聴きながら、これまでの自分の人生を振り返ってみた。

 あたしを児童養護施設に預けた両親は行方知れずのまま。
 捜し出そうとは思わない。
 兄弟も姉妹も親戚もいない天涯孤独。
 お年玉なんか、一度も貰ったことがない。
 良いことなんか一つもない。というのは真っ赤なウソだ。それなりに良いこともあった。
 
 未来はいつも予想外。
 なかなか自分の思いどおりにはいかない。
 人生どうなるかなんてわからない。
 もしかしたら、あたしは明日死んでしまうかもしれない。
 死んだら死んだでそれはそれでいい。
 天国があるとは思っていない。
 地獄があるとも思っていない。
 人生をやり直したいとも思わない。
 今から老後のことを心配しても仕方がない。
 あたしはこの世界で生きている。
 今を生きている。
 楽しくなければ人生じゃない。
 人生は楽しむもの。
 自分のやりたいことをやって、自由に生きていくだけ。
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