笑顔と猫とどんぶらこ~フーテンさきの歌紀行~
 旅のルール、その一。桃を見つけても拾わない。

 あの桃を拾ってしまったら、旅は終わってしまう。
 あたしはどうしてこんなくだらないルールを考えてしまったのかと、今さらながら後悔した。

 どうにかして、あの桃を拾いたい。拾わないと気が済まない。何をどうすれば、あの桃を拾えるのだろうか。こうして考えているうちに、桃はどんぶらこと流れていってしまう。

 あたしは桃を拾う手立てを考えた。

 あたしとまなちゃん以外の人に拾ってもらえば、旅のルールに違反しない。

 あたしは桃を拾ってくれそうな人を見つけるため、岸に上がって靴下と靴を履いて、下流に向かって全力で走り始めた。
 
 どんぶらこ。桃より速く走れ。どんぶらこ。風のように駆け抜けろ。どんぶらこ。

 あたしは心の中でつぶやきながら走っていき、二百メートルほど走ったところで、渓流釣りをしている青年を見つけた。
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